モノノミカタ ~CNCを使った木工作品についての説明書きなど

自然と人をつなぐモノづくり。創作する上で知ったこと、考えたこと。

チェロ板(エンドピンストッパー)について

チェロのエンドピンストッパーを製作していて、もっとも大事なのは、名前の通り、エンドピンを滑らせないことですが、エンドピンを替えると音が変わるように、エンドピンストッパーによっても楽器の響き方や音質が変わることに気がつきました。

目次

1.弦楽器に使われている木材

弦楽器に使われている木材は、弦の振動を、材料による共振により響きや音色を加えます。一般に良い楽器とは美しい音色をよく鳴らせるものを差します。

美しい音色を作り出す木材はどのような種類なのか調べてみました。

ピアノ

ピアノは弦をハンマーで叩いて音を出すので打弦楽器とも分類される。木材としてはスプルースの他、カエデ、ブナ、マホガニーなどが使われる。

スプルースは、楽器部材の中でも「比重が小さい(弦の振動を増幅するのにロスがない)」「音響伝播速度が速い」など音響特性に優れているのが特長で、音と密接に関係する響板や響棒に用いられている。響板は高い倍音成分をカットし、耳に心地よい楽音成分だけを残して豊かな響きに変えている、つまり、響板は響かせるための板であると同時に、ある意味では響かせないための板でもある。

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バイオリン

表板は松(スプルース)、裏板・側板はメイプル

クラシックギター

表板は松(スプルース)・杉(シダー)など、裏板・側板はローズウッド・メイプル・マホガニーなど

箏(こと)

本体は桐。寒い地域で生育された目の詰まった重いものが使われる。材質が固いほど切れのある音質になり、柔らかであれば丸みのある音がでる。

三味線

楽器本体は「天神」(糸倉)、「棹」(ネック)、「胴」(ボディ)から成る。材料は固く緻密で比重の高い木が良いとされ、花梨(かりん)・紫檀(したん)・紅木(こうき)など。

※紅木(こうき)または紅木紫檀はインドのマメ科のPterocarpus santalinus L.の木材

琵琶

琵琶は胴と棹から成る。材料は桑の木がよいとされ、裏面には欅や桜も用いられる。

中国琵琶は腹に比重の軽い桐が用いられており、バイオリンなど音響面で共通するが、国内の琵琶は硬い木材のみで構成され、独特である。

 

弦楽器の世界を見渡すと、スプルースや桐など適度に比重の小さい木材を響板として使うものが多く、今でもその形態が主流と言えます。

2.弦楽器とコンサートホールの床板

チェロやコントラバスは、ホールでは直接、床板にエンドピンを差して演奏します。

ホールの床板の材質はどうなっているのでしょうか。

論文(http://日本 音 響 学 会 誌 56 巻 1 号 (2000), pp .566 ユ)によると日本の音楽ホールの床(表-1 コンサートホールステージ床の構造例)は大まかに言えば檜(ヒノキ)の無垢材又は集成材と、ナラの集成材に2分されます。

ステージ床構造に関する試聴実験結果から、バイオリン・コントラバス奏者から最も高い評価を得たのは檜(ヒノキ)無垢材で、弾きやすいとの評価が出ました。

図-5のサンプル床の減衰時間を見ると、檜(ヒノキ)無垢材は周波数に対して減衰時間はフラットに近く、下地がある場合や集成材は低い音の減衰時間が長くなる傾向があります。したがって、このような結果から檜(ヒノキ)無垢材が高評価を得たと考えられます。

檜(ヒノキ)無垢材(A-1)の次に高評価だったのは、檜(ヒノキ)無垢材+合板(A-2)でヒノキやナラの集成材と同等またはそれ以上の評価を得ていました。

 

この結果から、檜(ヒノキ)無垢材は響きの周波数特性がフラットで、弾きやすい床構造であり、檜(ヒノキ)無垢材に下地がある場合も、他の集成材に比べ同等以上に評価されました。

私見ではありますが、チェロ奏者から檜(ヒノキ)無垢材が最も高い評価を得られなかったのは、チェロ奏者はどちらかというと芯のある音、砂をかんだような音色を好む傾向があり、檜(ヒノキ)無垢材の自然な響きは物足らなかったのかもしれません。

3.新しいエンドピンストッパーの製作

ホールでは直接床にエンドピンを差すので、エンドピンストッパーは必要はありません。これを使用するのは日常の個人練習と練習施設での分奏や合奏です。

エンドピンストッパーは滑り止めのゴムが付いており、最小限の面積で定着します。

自宅の床が木材の場合、エンドピンストッパーと共に共振して柔らかい響きを作りだします。一方、練習会場はコンクリート床に薄いクッションシートやカーペットを敷いた場所が多いと考えられ、金属的な硬い響きが多く残ると考えられます。

そこで、床が木材または化粧合板の場合と、コンクリート床の場合に対応する2種を設定しました。

(1)檜(ヒノキ)無垢材+比重が重めの板

例:ヒノキ無垢材12㎜+ケヤキ無垢材5㎜

自宅の合板床上ではヤマザクラやナラの板より響きが増した。さらに金属弦のギャン音も軽減された。

しかし合奏練習場所はコンクリート床で、自宅の合板床より音が出にくくなる傾向がある。このアイテムの構造は、床が木材または化粧合板の場合に向く。

(2)檜(ヒノキ)無垢材のみ

例:ヒノキ無垢材20㎜

自宅の合板床では、よく響き、スムーズに音が出るが、砂利を混ぜたような、芯となるような音は出にくい。

一方、合奏練習のコンクリート床では柔らかさが中和されバランスがよい。

したがって、ヒノキ無垢材のみではコンクリート床に向く。

 

アイテムを練習環境により選択すると、ストッパー機能だけでなく、雑音の少ない豊かな響きが得られます。

 

(おわり)

追記:2023年11月より木材床対応のチェロ板の構造を変更した。従来は“チェロ板のみ”での音響付加を考えていたが、木材床に用いる「檜(ヒノキ)無垢材+比重が重めの板」の場合、「比重が重めの板」を床板に置き換えればより豊かな音響となることに気がついたため。詳しくは次のブログで説明する